最近の新聞で「PDCA」について書いてある記事を読みました。要約すると、企業活動は「PdCa」になっているのではないかとの指摘。つまりは、計画(P)とチェック機能(C)ばかりに目がいき肝心の行動(d)や対策(a)が少ないと。
確かに、計画は立てるけど行動はイマイチというのは共感します。ただ、私見としては中小企業では「計画」を立てている会社自体が少ないという印象もあります。
計画を立てない理由として「計画を立ててもその通りにいかない」、「そもそも計画の立て方がわからない」などの話を聞きます。
それでも、声を大にして言いたいのは、(経営)計画を立てることは重要であり意義があるということです。思いつくまま行動するのと、計画を立てて行動するのでは、おのずとその結果は変わってきます。
そして、計画を立てる前にまずは現状分析を行い現在位置を把握することが大事です。ということで、今回は計画を立てる前段階の現状分析について考えていきたいと思います。
なぜ現在位置を知る必要があるの?
私は登山が趣味の一つです。上の写真も山に向かっている途中で直線すぎる道路に思わずシャッターを切ったものです。
登山を始めたばかりの頃に一度だけ山登り中に迷子になったことがあります。その時は、霧で視界が悪く自分がどこにいるのかわからなくなりました。
山頂も見えずどの方向に登って行ったらいいのか見当もつかなくなりとても慌てました。幸い、その時は登ってきた道に戻れて無事下山できました。
ではどうして迷子になったのでしょうか。
迷子になる理由としては、2つあると言われます。
一つが今どこにいるのかわからない状態(現在地不明)。二つ目がどこに向かえばいいのかわからない状態(目的地不明)です。
迷子になったときは、まず落ち着いて現在位置を確認することが大切です。
これは会社経営でも同じだと思います。計画もなしに大きな山(投資など)に登ると遭難してしまいます。
そのためまずは現在位置を把握することが大切になります。そして、目的地(最終的に得たい成果)を決め、どのようなルートで目的地を目指すか戦略を練ります。
登山途中で進路がズレていないか確認するコンパスの役割が決算書や毎月の試算表になります。そして、登山活動を補助する役割の伴走者が銀行ないし会計事務所などではないでしょうか。
現在位置を知る方法
現在位置を知るための、現状分析方法としては定量分析と定性分析があります。
定量分析は、決算書などの数値で表せるものです。定性分析は、ここでは決算書以外から読み解くものとします。
決算書からわかること
決算書には、貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、そしてキャッシュフロー計算書(CF)があります。
決算書を分析することにより、稼ぐ力はどれくらいあるのか。資産構成や財産状況、資金繰り状況などを読み解くことができます。
また、過去5~10年分の決算書を並べて比較するとより推移状況がわかります。
貸借対照表からわかること
- 現預金残高
- 資産と負債のバランス
- 自己資本の割合
- 過去に投資してきた資産や現在の保有資産の状況
- 保有資産の稼働状況や将来の買い換え時期。必要と想定される修繕費用
- 金融機関ごとの借入金状況。借入目的や担保状況
- 資金繰り状況
- 金融機関からみた融資の格付状況 など
貸借対照表は会社設立時から現在までの企業活動の結果を表しています。そのため、過去にどういう投資を行ってきたか。資産構成や借入金などの負債がどれくらいあるのかなどの財産状況も読み取れます。
例えば機械設備を購入したけど、あまり稼働せず倉庫に眠ったままになっている「不良資産」が、貸借対照表に残ったままのケースもあります。
そのため、現状分析を行う場合には、実体に即した時価貸借対照表に置き直して考えます。
また、将来の資金繰りをシミュレーションするにも、現在の貸借対照表の数字がスタートになります。
なお、この記事を書いている2023年はゼロゼロ融資の元金の返済が始まった、または近々元金の返済が始まるという時期です。今は資金がまわっていても、ストップしていた返済が始まると急に資金繰りが厳しくなることも想定されます。
普段(月次で)から貸借対照表の数字を見ておくことで、現在の資産状況や将来の資金繰り状況を予測することもできます。
自社の株価状況も
中小企業はオーナー経営が多いことから自社の株価状況も気になります。
上場企業であれば株価が上がることはうれしいことですが、上場していないオーナー経営では一概にそうとは言えません。
高すぎる株価は後継者への資産承継の際に、納税資金の確保という悩みが生まれます。
一方で、M&Aや事業譲渡を検討されている場合は、なるべく株価は高い方が良いでしょう。
現在の状況と将来の出口戦略もセットで考える必要があります。
損益計算書からわかること
- 収益力
- 利益の発生源泉
- どの部門、どの商品が利益を生み出しているのか。または赤字となっているのか
- 固定費の状況
- 得意先の構成。仕入先の構成
- ABC分析での自社の重要取引先はどこか(パレートの法則)
- ビジネスモデルや商流の確認 など
損益計算書は会社の一定期間の経営成績を表すものです。いくらの売上があって、いくら儲かったかを表しています。もっと細かく分析すると、部門ごとの利益、商品ごとの利益なども見ることができます。
また、会社ごとのKPIを設定してその数値を比較していくと、実際の企業活動とその結果を検証できます。
それと、損益計算書を分析する場合には「変動損益計算書」に組み替えると数字の意味が把握しやすくなります。毎月の数字を変動損益計算書で比較していくだけでも、売上高・原価・利益の推移がわかり易くなります。
要素分解という考え方も
単に「売上を上げましょう」でピンとこないときは、売上高を構成する各要素ごとに考えることをおススメします。このように視点を変えて考えると、今までよりもっと具体的な方策が浮かびやすくなります。
利益=売上高-費用
利益を上げるために、仮に売上高に着目すると・・・
売上高の構成は、(商品単価 × 顧客数 × リピート数)の掛け算なる
商品単価を上げるためには何ができるか・・・
顧客数を増やすためには、リピート率を上げる施策は・・・
一人で考えていてなかなかうまく行かないときは、事業内容を理解している人に質問してもらうと考えがまとまったりもします。
決算書以外からわかること
上記では、決算書からわかることを説明しました。しかし、決算書の数値だけではわからないことも多々あります。
そのため、決算書の数字とそれ以外の情報を合わせて考えることでより現状分析の精度が高まります。
決算書の情報以外で重要になってくるものを羅列しますと・・・
- 業界での自社の立ち位置は何番目なのか。市場の占有率は
- 今後の市場の動向は。人口動態はどうなっているのか
- 自社がターゲットとしているお客様は誰なのか。どこにいるのか
- 競合他社との比較は(SWOT分析・3C分析)
- 社内の組織体制は。従業員の年齢構成。資格の保有状況は
- 10年後の会社を担う人材は誰なのか。後継者育成はどうしているか
- 企業文化はどのようなものか。どのような社風を作っていきたいのか
- 社長の経営姿勢は。お客様の真のニーズを把握しているか など
少し会計的な話になりますが、企業は貸借対照表の資産を活用して売上を作り、利益を獲得していきます。その結果として損益計算書の数字が作成されます。
では、その売上はどうやって作られるのでしょうか。
製造業であれば設備投資したものから。サービス業であれば自社独自のノウハウやコンテンツから売上が生まれます。そしてその企業活動の過程には必ず人が関わっています。
この人(人材)は、決算書上では人件費という数字でしか表現されませんが、決算書に載らない情報もとても大事です。
ビール業界を例に考えてみます。
ビールの酒税が減税となることでニュースとなっています。ビール業界はアサヒ・キリン・サッポロ・サントリーの大手4社の寡占状態が続いています。
酒税の改正ではビールの酒税が下がる一方で、第三のビールの酒税が上がりました。ビールに限っていえば店頭価格は下がるので今より消費者が増えると予想されます。
ここで、市場の占有率について考えてみます。
例えば、私がSビールの営業担当とします。ビール減税の効果もあって売上が前年比105%になったと喜んでいました。しかし、市場の伸び率は110%。
どうでしょう。自社だけでみると売上は伸びていますが、市場全体との比較では売り負けしています。(注:この数字はあくまで仮定であって、実際の数字とは関係ありません)。
自社の決算書だけ見て売上があがったと喜んでいては間違った判断になるかもしれません。
まとめ
ここまで、現在位置を確認することの重要性について書いてきました。
ただし、現在位置を知っただけでは何も変わりません。その後に計画を立てて実行に移さないとただの自己満足に終わってしまいます。その意味でもPDCAのサイクルを回していくことが重要となってきます。
中小企業で資金が潤沢にある会社は少ないかと思います。そのため、一度に大きな投資をしてそれが失敗すると一気に資金繰りがひっ迫することもあります。投資をする場合も、自社の現在の体力を知ることとその投資計画を立てることは当然に必要なことです。
現状分析で数字を把握しただけでは会社は成長しません。しかし、現状の数字を見ないで進むのも迷子になる原因となります。
まずは、現状分析を行って自社の現在位置を確認してはいかがでしょうか。
(追記)当事務所のホームーページが新しくなりました。税務情報はこちらに掲載する予定です。