【増加運転資金】業績が拡大すると運転資金は増加する

開聞岳と船

増加運転資金は、企業が事業を拡大するときに必要となる運転資金です。業績が拡大すると売上の増加と伴に売掛金や買掛金も増えることが一般的です。しかし、売上の発生とその資金の回収までには通常時差があります。今回は、事業拡大や新規事業の立上時に必要となる、増加運転資金について説明します。

目次

増加運転資金

運転資金のおさらい

以前のブログでは、平常時と非常時に分けて運転資金を説明しました。一般的に運転資金というと「経常運転資金」のことをいいます。経常運転資金は、会社を運営していく上で通常必要となる資金です。

経常運転資金

経常運転資金=売上債権(受取手形・売掛金)+棚卸資産-買入債務(支払手形・買掛金・未払金)

増加運転資金とは

増加運転資金は、業績が拡大しているときに発生する資金です。

企業は、業績が拡大する過程で在庫などの棚卸資産、売掛金などの売上債権が増加します。損益計算書上では、売上も順調に伸び、利益も出ているので問題がないようにみえますが、実際には、運転資金も増加しており、企業の資金繰りを圧迫していることもあります。

簡単な設例で考えてみます

<①通常時> 売上債権200万円、棚卸在庫200万円、買入債務150万円

必要経常運転資金は、売上債権200万円+棚卸在庫200万円-買入債務150万円=250万円になります。

<②業績が2倍になったとき> 売上債権400万円、棚卸在庫400万円、買入債務300万円

増加運転資金は、売上債権400万円+棚卸在庫400万円-買入債務300万円=500万円になります。

(※説明のため簡略化しています。)

ここでは、簡略化してすべての項目を2倍で計算しています。仮に同じ資金サイクルであれば売上が増えると、これまで以上に運転資金が必要となることがわかります。そして、実際には人員の増加などもあり他の固定費も考慮した増加運転資金が必要となります。

また、別の論点としてこの運転資金をどうやって調達するかがあります。選択肢としては、①内部留保(会社の貯蓄から)、②金融機関からの借入、③代表者からの資本注入・借入があります。

注意すべきは、②金融機関からの借入です。この場合は、借入金の元本返済も資金繰り計画に反映させる必要があります。

まとめ
  • 売上が拡大すると運転資金も増加する。利益は増えても、資金が連動して増えるわけではない。そこには資金回収までの時差がある。
  • 一般的には業績拡大と並行して人件費等の固定費も増加する。そのため、毎月の固定費の増加も計算する。
  • 運転資金を金融機関から借りる場合は、元本返済も資金繰りに反映させる。

運転資金の異常値をチェックする

短期的な資金繰り状況は、試算表からも読み取ることができます。試算表の流動試算項目と流動負債項目をみると、来月の大まかな現預金状況はイメージできると思います。

さらに異常を感じた時や業績が急に変化したときは「回転期間」を確認するのもおすすめです。運転資金の増減は、売上債権・棚卸資産・買入債務の回転期間によっても変動するからです。

回転期間の計算方法
  • 売上債権の回転期間=売上債権 ÷ 1日あたりの売上高
  • 在庫の回転期間=棚卸資産の金額 ÷ 1日あたりの売上高
  • 買入債務の回転期間=買入債務 ÷ 1日あたりの売上高

例えば、今までは売上債権の回転期間が30日だったのが、40日に伸びていれば、そこになにか異常値があると推測できます。回転期間の異常値から、帳簿を精査すると次のような発見があるかもしれません。

  • 売掛金のなかに、回収が洩れているまま放置されている得意先があった。
  • 資金回収期間が他の得意先より長期のものがあった。
  • 売掛金の残高は残っているが、経理の消込もれであり実際には回収済みの債権であった。
  • 棚卸在庫のうち、不良在庫予備軍が発見された。
  • 買入債務の支払が早くなっていた。調べると請求書をもらってすぐ支払をしていた。 etc・・・

また、運転資金とは関係ないですが売上債権の管理を行うことで社内不正を牽制する効果もあります。

 最後に。よく言われることですが、資金繰りのコツは、売上債権はなるべく早く入金してもらい、買入債務はなるべく遅く払わせてもらうことです。当然、相手がいることなのでこちら側の事情だけを押し通すわけにはいきませんが、納品が完了したらすぐに請求書を発行するなど出来ることから実行してきます。

なお、棚卸資産については、自社だけの話なのですぐに取り組める項目です。棚卸資産を減らす一番の対策は、毎月の実地棚卸です。製造業を中心に5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)は有名ですが、棚卸資産の整理整頓もここに含めていただきたいものです。

資金繰りを作成しよう

資金の心配がないところは、特に資金繰り表を作成する必要はありません。しかし、そうでない企業は増加運転資金が必要になるケース(売上拡大や新規事業の立上など)では資金繰り表を作成することをおすすめします。

その場合、会計ソフトやExcelを使った資金繰り表や手書きの資金繰り表でもかまいません。資金の流れを把握することが目的であるため、ツールはその作成にかかる費用対効果で考えます。作成期間も日繰り・週繰り・月繰りにするかはその状況次第です。

黒字倒産という言葉がありますが、会社は利益が出ていても資金(キャッシュ)がなくなると、倒産してしまいます。特に、売上拡大期には資金計画はしっかりと立てましょう。

まとめ

企業の業績拡大時や新規事業を立ち上げた場合を想定した、増加運転資金について説明しました。中小企業では特に資金に焦点をあてた経営が重要です。普段よく見る「損益計算書」や「貸借対照表」に加えて、「キャッシュフロー」も月次のチェック項目に必須なものとなります。

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